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2023.03.24

精密切断機のトラブルを防ぐ!~その1~【トラブルの正体】

精密切断機は他の装置に比べ故障率が高い装置です。同じく試料作製で使用される研磨機と比べると故障発生率は約10倍です。

しかし、それは何故でしょうか?ここでは、精密切断機が故障してしまう原因を深掘りしていきます。

精密切断機のシステム構成

精密切断機は湿式切断機でありクーラント(水に切削油を混ぜたもの)を使用し切断を行います。そして、ほぼ全ての精密切断機は付属のタンクを持ち、ポンプでクーラントを循環させています。

まず、この循環タンクシステムという大前提がこの故障原因に大きく関与しています。簡単に言うと、循環させることでクーラントの劣化が起こり、錆びが発生し、故障につながります。しかし、世の中には循環タンクを使用した機械はNC装置に代表されるように多くあります。循環タンクを使用していることが故障の原因にならないのでは?と思われる方も少なくないと思います。循環タンクを搭載している装置は当然クーラントの劣化を考えなければなりませんが、精密切断機の場合は、特にこのことを気を付けなければならない理由があるのです。

原因1,金属イオン

精密切断はで使用する切断砥石は小さな砥粒で構成されています。その為、他の加工機などと比べ精密切断機から排出される金属屑は、圧倒的に小さくミクロン単位となります。そして、この小さい金属屑こそが精密切断機の故障となる大きな要因なのです。

金属は水などの液体に接したり、湿度が高い環境下にあると、表面の金属原子が電子を放出することで金属イオン(陽イオン)となり流れ出すのです。つまり、金属イオンは金属の表面から溶け出すのです。同じ重さの金属屑であっても、屑が小さくなることで全体の表面積は非常に大きくなります。そして、見た目よりも数十倍、数百倍大きな面積から金属イオンが流れ出します。

ダミーイメージ

溶けだした金属イオンはクーラント中にある陰イオンと結びつくことで、装置に錆や腐食といった形で現れます。錆は、金属表面で金属イオンと他の陰イオンと結合し発生します。腐食は、金属イオンが流れ出し、金属表面がザラザラしたり、穴が空いたりします。このほか、流れ出した金属イオンが他の金属表面で電子を受け取り個体に戻る「析出」といった現象もおこります。金属表面にボツボツと謎の塊りが付着している場合は、この析出が起きている可能性があります。

例えば鉄の場合、水を媒介に鉄の表面の原子が電子を放出し陽イオン(Fe3+)となり溶け出し、水分中や空気中の酸素(O2-)と結びつき赤錆(Fe2O3)となって現れます。特に水面付近は空気中の酸素の影響を受け錆の進行が早くなります。乾式切断であれば、水分が無いので金属イオンが流れ出し錆が発生するということはありませんが、湿式切断においては、この金属イオンは無視出来ない厄介な存在なのです。

クーラントが水のみだと、金属イオンは大量に発生し錆と腐食で装置がボロボロになります。これを抑えるために切削油を使います。切削油は、切断時の試料の冷却、洗浄といった機能と金属イオンの反応を抑制し錆、腐食を抑えるという機能があります。後者の機能を十分発揮する為は、クーラントの濃度とpH値の管理が大切になります。

適正な濃度で作られたクーラントは、切断屑に油膜を張り金属イオンが流れ出すことを防ぎます。この油膜が効果的に形成出来ているか確認する為、濃度管理を行います。金属イオンはクーラントの劣化スピードを速め油膜形成の機能を低下させますので、定期的な濃度管理をお勧めします。

多くの金属は酸性条件下で錆び、腐食が起こります。その為、クーラントはアルカリ条件下というのが基本となり、pHの値を管理が必要になります。金属イオンが大量に発生すると陽イオンが多くなるので、クーラントは酸性へと傾きます。陽イオンが多くなり酸性に傾いていくと、クーラントが変色していきます。こうなると、クーラントは酸性条件下となり、装置が錆、腐食しやすい環境になり、切断する試料にも影響を与えてしまいます。特に青色や黒っぽい色に変色している場合は、クーラントがかなり酸性になっているので素手で触らないようにして直ぐにクーラントの交換をして下さい。

原因2,異種金属接触腐食

金属イオンには、金属の種類により陽イオンになり易いものとと、なり難いものがあるります。これを「金属のイオン化列」と言い、下の表が金属が陽イオンになりやすい順に並べたイオン化列です。

画像5

水素は金属ではありませんが、水素を基準として考えると解りやすくなるので表記されています。

なぜ、金属のイオン化列について知ってもらいたいかというと、違う種類の金属が接触すると、そこで錆、腐食が加速度的に発生する「異種金属接触腐食」(ガルバニック腐食)が起きるからです。

異種金属接触腐食は2種類の金属が液中や高湿度下で接触していると、「陽イオンになりやすい方の金属」から「陽イオンになりにくい金属」へと電子が流れ、電子を失った金属の表面からは陽イオンが流れ出します。異種金属接触腐食の注意しなければならない点は、急速に腐食するということです。腐食のスピードが速い為、大きな腐食になりやすく装置寿命を縮めます。腐食を発見したらすぐに対応することが大切になります。